何を思ったのか、クラウドはいきなり俺に腕相撲を挑んで来た。
俺に勝てる気でいるのか、深い意図があるのかどうかはわからない。
「するのは構わんが…」
読んでいた雑誌を閉じて、挑戦を受けてやるような返事をすると、クラウドはにっこり笑う。
「もちろん、ハンデありだよな?」
「どの程度のハンデを考えてる?」
クラウドはうーん、と悩んでから、俺は両手で勝負する、と言い出した。
普通に考えたら、かなりなハンデだと思うのだが、俺はそれほど不利とも感じなかったので、申し出を受け入れてやった。
「よし、では、勝負だっ!」
意気込むクラウドと腕相撲を始めたが、まあ、勝負にはならない。
一応、三連戦してやったが、全部俺の勝ちだった。
「むーっ」
クラウドはあからさまに、拗ねている。
「俺に勝てると思ってるのが間違いじゃないか?」
「少しぐらい、手を抜けよ!」
「それはクラウドに失礼だろ。真剣勝負だったんじゃないのか?」
そりゃ、少しは真剣だったけどさ、とクラウドは言い淀む。
少し? つまり本気でやりたかったわけではなかったということだろうか。
「…よし、違う勝負にしよう!」
クラウドはいきなり立ち上がった。
「セフィロスも、立つ!」
「…俺も?」
「セフィロスも!」
こういう時はクラウドに逆らってはいけない。長年一緒に暮らしてきた中で学習してきたことだ。
言うとおりに立ち上がると、西部劇、知ってる? と聞いてきた。
遠い昔、そういうジャンルの映画があると言うことを聞いたことがある。映画もみたような記憶がある。
「ガンマンとか、そういう人がいるやつだな?」
「そうそう。最後の決闘とかでさ、背中合わせから同時に3歩あるいて、振り返った瞬間撃つ」
クラウドはバーンと、右手の人差し指を伸ばして作った銃で、俺を撃つ振りをする。
「早撃ち勝負ということか?」
「そうそう、それ!」
クラウドは嬉しそうに笑うが、ここには銃のようなものもないし、本当に撃ち合いになったら、相打ちは免れない。銃においては俺が勝つ自信もない。
「するとしても、銃はどうする?」
ふふふ、とクラウドは笑う。
「そこは投げチューということで!」
「はぁ?」
いつになく声がひっくり返ってしまった。
投げキッスで勝負するってどういうことなんだろうか。
どうなったら勝ちで、どうなったら負けなのか。
それにどう考えてもシュールすぎる絵面だぞ。
お互いに投げキッスしあうとか。
「クラウド、その勝敗判定は誰がするんだ?」
「判定?」
「勝負なのだから、勝ち負けはっきりさせないのか?」
「あ、ああ、そうだよな!」
クラウドは何か焦っているようで、とってつけたような返答を返してくる。クラウドは何か企んでいるのかも知れない。その企みを暴くにはこのよくわからない勝負に乗るしかない、ということか。
「どうなったら、勝ちとする?」
「うーん」
と、クラウドは悩んでいる。
悩むということは、勝敗判定については決めていなかったということだろう。
「と、とりあえず、一回やってみよう!」
「試し撃ちしてみると?」
「そうそう!」
物理的に何かに当てるとかいうことが出来ないため、視覚でははっきりとした勝敗は確認出来ない。魔法を打つわけにもいかないだろうし、そういう勝負に持ち込みたいわけでもない気がする。
「一度やってみるとしよう」
「じゃあ、背中合わせからスタート!」
クラウドはどこか嬉しそうだ。目がキラキラしている。
「三歩進んでから、振り返るんだよ!」
「わかった、わかった」
「じゃあ、まず、いーち!」
クラウドの声に合わせて一歩進む。続いて、にー、という声がしたので、足を前に出して、2歩め。
さん、の声を待っているのに、一向に声がしない。
不思議に思ったが、ここで振り返ってしまっては、勝負にならないと思い、クラウド、と呼びかけてみる。
しかし、返事はない。